算数は嫌い、数学が苦手。
そんな言葉を誰でも聞いたこと、あるいは、言ったことがあるでしょう。算数や数学は、他の教科と比べると「セロリ」のように、苦手な相手とみなされることが多い科目と言えます。
子どもたちにとって、私たちにとって、数の学習はなんなのか。今回から心理学的に考察していきます。
不思議なことに、小学校1年生で、「さんすうがキライ」「さんすうは苦手」という子どもはそれほど多くありません。算数よりも、相対的に、他の教科、例えば体育や音楽などの実技が好きだということはあるでしょう。
もちろん、生まれつき数学が得意な人もいれば、反対に、学習障害といって、生まれつき、読む、書く、計算、のいずれかに苦労する子どもたちもいます。
明らかにさんすうが苦手だ、という意識を持っている小学1年生は、入学前から、かなり先取りして勉強していたのかもしれません。その理由は次回にまわします。
小学校低学年では、どうして、算数は嫌われ者になりにくいのでしょうか。
算数の教科書やドリルを見てみると(100円ショップでも売っています)、問題や数式が、実生活と強く結びついていることがわかります。例えば、2つケーキがあり、3つケーキを足したら、全部でケーキはいくつあるか、といった問題です。
数式と現実世界の結びつきが強ければ、算数を学ぶことが生活に役立つことも多くなります。例えば、ケーキが5つあって、きょうだい3人で1つずつ食べたら、2つしかのこらない。兄たちより先に2つ目を食べてしまおう、と考えることができれば、自分は損しなかった、というポジティブな体験ができます。
話は少し変わりますが、「探偵ガリレオ」の主人公、福山雅治が演じる湯川先生は、いつも同じインスタントコーヒーを飲んでいます。研究室にやってきた刑事にこのコーヒーをふるまうと、刑事たちは「相変わらずマズいな」と愚痴をいいます。
しかし湯川先生は、全く味を気にすることなく、「誰が作っても同じ味になる」という点を気に入っているようです。これは「再現性」を重視する科学者の態度が出ていると言えるでしょう。
話を戻して、小学校低学年の算数は、「みんなと同じことをすれば、みんなと同じ答えにたどり着く」という特徴があります。かけっこの速さも、物語を読んだ後の感想も、育てたアサガオも、みんなバラバラです。ところが、算数の答えだけは、仮にいちど間違えたとしても、みんなと同じことをすれば、同じゴールに辿り着くことができます。
このように、小学校低学年の子どもにとっては、なんらか生まれ持った困難がなければ、それほど苦手意識を持つことはありません。その理由として、みんなと同じものを得られる、そして、みんなと同じかどうか、はっきりとしたフィードバックがある、そういった特徴が、こどもたちにとっては算数の魅力となっているでしょう。
そんな算数ですが、いつのまにか、できれば避けたい科目、になっていきます。これはどういうことでしょうか。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修