病気不安は、コロナが終息した頃に出現する、心理学的な問題です。時計の針を巻き戻すと、2011年ごろにも、病気不安が出現したことがありました。そうです。東日本大震災が(もちろん今でもその爪痕は残されていますが)終息した頃でした。
原子力発電所がメルトダウンしたことにより、私たちの行動に変化がありました。例えば
· 自分の住む地域の、放射能の強さを調べた、もしくは、注意してニュースを聞いた
· 放射能が身体に与える影響について調べた、もしくは、注意してニュースを聞いた
ハイリスクな人たち、例えば妊娠していた人は、より慎重になり
· 東北地方や北関東への旅行をキャンセルした
· 西日本に一時的に「疎開」した
· 野菜がどこで栽培されたかを気にした
· レントゲン検査を避けた
といった行動の変化がありました。このような一時的な変化、つまり、放射能に用心するようになることは理解できます。ところが、多くの人たちが日常生活を取り戻した後でも、強い不安がなくならず、このような行動を繰り返す人たちもいました
· 放射能が怖くて、家の外に出られない
· 将来、妊娠したとき子どもへの影響を考えて、国産の野菜や肉が食べれない
· 何だか身体の調子が悪く、頭痛がしたり、お腹が痛くなったり、めまいがする
· 病院で検査をしてもらったが異常はないないけど、何だか体調が悪いので、検査を繰り返す
このように「平時」において、健康や病気に対する強い不安が持続することを、病気不安といいます。「精神疾患の分類と診断の手引第5版」に基づく名称は、病気不安症 Ilness AnxietyDisorder となります。正式な定義と診断基準は、こちらのリンクをご覧ください。
多くの人が、日常を取り戻すにつれて、病気に対する不安が下がり、予防行動の頻度と程度が下がっていきます。病気不安を持つ人たちは、病気に対する強い不安が持続するため、予防行動の頻度と程度が変わりません。予防行動それ自体は自分や他人を傷つけるものではありませんが、その状況では過剰と思われるほどで、日常生活が送れなくなるほどつらくなってしまいます。
病気不安症の特徴は、このようにまとめることができるでしょう。
· 健康や病気に関して、強い心配が続き
· 病気のことが心配で、勉強、仕事、家事が手につかない
· 楽しみとやりがいが生活から奪われてしまう
· 診察や検査を繰り返すことで、必要以上に医療費がかかる
文:国際医療福祉大学 赤坂心理学科 HIKARI Lab監修 小堀修