ここ数年、よく耳にするようになった、Highly Sensitive Person(HSP)とは、心理学的にどのような人なたちのでしょうか。この言葉は1997年に生まれたにも関わらず、最近になってよく使われるようになったのはどうしてか、合わせて考えてみます。
HSPを簡単に言うと「空気を読みすぎて気疲れしやすい」特徴を持つ人たちです。Highly SensitivePerson を直訳すると、過敏な人、と表現されます。意訳すれば、とても繊細な人、でしょうか。過敏や繊細といった表現は、日常的に使われるため、もともとの意味が多様で、その真意がわかりにくいかもしれません。Highly SensitivePerson は、心理学的には、感覚処理感受性 (sensory-processing sensitivity) が生まれつき高い人であり、その結果、「大きな音に敏感で、人間関係で疲れやすいが、内面が豊かな生活を送っている」という特徴を持っています。
しかし、感覚処理の感受性と、人間関係の疲れや内面が豊かな生活が、どのように結びつくのか、不思議です。感覚処理の感受性が高いことが、どのような影響を及ぼすことになるのか、少しずつ考えていきます。
私たちヒトを含む哺乳類には五感があります。視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚の5つです。これらの感覚は、環境からの刺激を絶えず処理しています。目を閉じたときよりも、目を開けたときのほうが、さまざまな色や光の刺激を脳内に取り込むことになります。耳を塞げば (ジブリの映画のタイトルみたいですね)、環境からの刺激入力は小さくなります。
ところで、日本で製作されたアナログラジオを欧州に持っていくと、現地で売っているラジオに比べて、聞けるチャンネルが少なくなります。これは、日本で設定されている周波数の幅が、欧州のものと異なるためです。
私たちの感覚器にも、このような周波数の幅があります。例えば、人間に比べて犬のほうが嗅覚の幅が広く、猫のほうが聴覚の幅が広くなっています。訓練された犬は、違法薬物の入ったスーツケースを見つけ出したり、猫は遠くにいても飼い主の足音を聞き分けることができます。
ちなみに、人間が最も優れているのは視覚だと言えるでしょう。180度に近い視野の広さがあり、遠くのものにも、近くのものにも焦点を合わせることができ、見える色にも広い幅があります。逆に肉食動物は視野が狭く、近いものに焦点を合わせやすく調整されているため、目の前の獲物を捕まえやすくなっています。
これらを踏まえると、Highly SensitivePerson は、世界中で使えるアナログラジオを持っている、つまり、感覚器が受け取る刺激の幅が広いのかもしれません。このため、他の人が気づかないような音や光を感じている可能性があります。
遺伝的特徴の強いとされる自閉症は、大きな音や眩しい光にとても敏感です。ここから推測すると、このような「周波数の幅広さ」は、まさに生まれ持ったものと言えるかもしれません。これは、Highly Sensitive Personの特徴は生得的、つまり生まれ持ったものだと定義されていることにも一致します。
文:国際医療福祉大学 赤坂心理学科 HIKARI Lab監修 小堀修