自分らしさの心理学(4): 自分らしさが高めるもの

April 12, 2023

自分らしさとは何でしょうか。私たちは、どの時代でも、自分らしさを追求するのでしょうか。自分らしさを追求していくと、どんなことがあるのでしょうか。このコラムでは、私たちがどのようなときに自分らしさを感じ、自分らしさを必要とするのか、そして自分らしさを高める方法について、心理学的に考えていきます。

 

第3回のコラムでは、自分らしさを「本来感(Authenticity)」と、捉え直したうえで、その4つの柱について紹介しました。その4つについて詳細にみていく前に、今回は、そもそも、「自分らしさが高まる、と何がいいのか?」について、ある文献から探っていきます。

 

大まかに言うと、本来感が高いほど、心の健康であるウェルビーイング、そして職場でのワークエンゲイジメントが高いことが分かっています。まず前者、本来感が高まると、どのようなウェルビーイングが高まるのかをみていきます。Sutton (2020) が75の研究をレビューして、本来性と次のような概念を測定する尺度との関係を、メタ分析しました。

 

o  自尊感情

o  主観的幸福

o  ポジティブ感情

o  人生に対する満足度

o  主観的ウェルビーイング

o  メンタルヘルス

 

その結果、本来感はこれらのウェルビーイングの尺度と、中程度の正の相関があることが明らかとなりました (r = 0.40, 95% CI [0.35, 0.45], N = 16,136)。確かに、自分らしさを感じることができれば、うれしい、心地よい、やりがいがある、このままでいい、そんな感覚も高いでしょうし、ストレスにも上手に対処できそうです。 この本来感とウェルビーイングの結びつきは、ジェンダーや年齢に影響されない、つまり、どのような性でも、何歳であっても、本来感が高いとウェルビーイングが高いことになります。

一方で注意しなければならないのは、欧米のような個人主義の文化圏ほど、本来感とウェルビーイングとの関係が強くなり、東アジアのような集団主義の文化圏ほど、この結びつきが弱くなる、ということです。私たちが所属する文化圏では、「私らしさ」という感覚がもたらす影響に、何らかの謎がありそうです。

 

おそらく、本来感のなかに「周囲に流されない」「忖度しない」という要素が入り込んでおり、これが集団主義の文化圏では、必ずしも自分の健康を守るわけではないのかもしれません (例「長い物には巻かれろ」)。

 

他にも本来感には、LGBTや移民の人たちのストレスを、緩和する役割もあることが指摘されています。自分が少数派になる、あるいは、自分とは異なる集団に入っていくときに、自分らしさが、さまざまな差別や偏見から身を守る役割を果たしているのでしょう。

 

次に後者、本来感が高まると、どのようにワークエンゲイジメントが高まるのかをみていきます。ウェルビーイングはよく聞くようになった言葉ですが、ワークエンゲイジメントとは、いったい何でしょうか。

 

島津 (2014) によると、ワークエンゲイジメントとは、仕事に関して肯定的で充実した感情および態度と定義されています。より詳細に記述すると

 

「ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭に よって特徴づけられる. エンゲイジメントは,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」

となります。それでは本来感が高いと、仕事にどのような影響が出るのでしょうか。まず、仕事のパフォーマンスが高くなる、仕事に対する満足度が高くなる、離職率が低くなる、カスタマーサービスがよくなり消費者や顧客の満足度が高まる、といった関係があります。

 

ほとんどの研究において、ワークエンゲイジメントを測定する尺度は、主に、Utrecht Work Engagement Scale (Schaufeli & Bakker, 2003) が使用されていました。この尺度の項目には、仕事に没頭できる、仕事に熱中できる、仕事に誇りを持てる、仕事にインスパイアされる、といったものがあります。最新版の尺度はこちらから閲覧できます。

https://lirias.kuleuven.be/retrieve/306542

 

前回と同じく、Sutton (2020)が75の研究をレビューして、本来性とワークエンゲイジメントとの関係をメタ分析しました。その結果、本来感はワークエンゲイジメントの尺度と、中程度の正の相関があることが明らかとなりました (r = 0.37, 95% CI [0.30, 0.43], N = 3189)。

 

もちろん、本来感とウェルビーイング、ワークエンゲイジメントとの関係は、因果関係まではまだはっきりしない段階です。本来性を高めることで、ワークエンゲイジメントが。あるいは、ワークエンゲイジメントを高めたら、本来感が高まるという可能性もあります。ただ、このコラムでは、私らしさを高める方法についても、後々、提案していく予定です。

 

島津明人: ワーク・エンゲイジメント: ポジティブメンタルヘルスで活力ある毎日を.東京, 誠信書房, 2014.

 

Sutton, A. (2020). Living thegood life: A meta-analysis of authenticity, well-being and engagement.Personality and Individual Differences, 153, 109645.

 

Schaufeli, W., & Bakker, A.(2003). Utrecht Work Engagement Scale (English Version). Utrecht: OccupationalHealth Psychology Unit Utrecht University

 

 

Sutton, A. (2020). Living thegood life: A meta-analysis of authenticity, well-being and engagement.Personality and Individual Differences, 153, 109645.

 

文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修 

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