自分らしさとは何でしょうか。私たちは、どの時代でも、自分らしさを追求するのでしょうか。自分らしさを追求していくと、どんなことがあるのでしょうか。このコラムでは、私たちがどのようなときに自分らしさを感じ、自分らしさを必要とするのか、そして自分らしさを高める方法について、心理学的に考えていきます。
前回のコラムでは「本来感」について紹介することで、自分らしさについて考察してみました。今回のコラムはややこしいタイトルがついていますが、本来感について、海外の文献を紹介して、自分らしさにせまりたいと思っています。
Authenticityという言葉は、もともと哲学用語で、その定義は、哲学でも心理学でも多様であり、なかなかひとつに統一されることはありません。最も頻繁に使用されている概念と尺度に、Authenticity Inventory というものがあります (Kernis & Goldman, 2006)。項目は以下のリンクから確認できます。
https://amberaprice.com/wp-content/uploads/2022/05/Authenticity-Inventory.pdf
1500もの論文が、この論文を引用して研究しており、Authenticity Inventoryを用いた研究が、世界中で行われていることがうかがえます。質問紙には45の項目がありますが、大きく分類すると、4つの柱を持っています。
1. まず、「気づき」です。自分とは何者かがわかっていることです。また、自分はこうしたい、ああしたい、こう感じている、ということに気づいている状態です。前回ご紹介した感情的労働であれば、「本当だったら笑っているけれど、これは怒ってもいいよね」といった認識ができている状態と言えるでしょう。一方で、熟練した役者さんは、自分がその役になりきることができるため、演じる人物の「気づき」が高まった状態を作り出しているとも言えます。
2. 次が、「偏りのない自己評価」です。他人にお世辞を言われても、あるいは、けなされたとしても、自分の長所と短所について、客観的にわかっている状態、といえます。
3. さらに、「自分らしい行動」です。忖度することなく、他者の期待や批判に敏感にならず、自分の価値観に基づいて行動できることです。
4. 最後が、「人間関係」です。いつわりのない自分を他人の前で出せているか。正直な気持ちを話せているか。「自分らしさ」をとても強く感じるかもしれませんが、困難も伴いそうです。
まとめますと、自分の気持ちに気づいており、自分の長所と短所を正確に把握しており、価値観を持っておりその価値観に基づいて振る舞い、正直な気持ちで親しい他者とつきあえている。
これが「自分らしさ」の高い状態、というのが、Authenticity Inventory の示唆するところです。どうでしょうか。小難しい内容で、かつ、自分らしさを感じるのは簡単ではなさそうだなという壁も見えてきました。
Kernis, M. H., & Goldman, B. M. (2006). Amulticomponent conceptualization of authenticity: Theory and research. Advancesin experimental social psychology, 38, 283-357.
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修